光の粒が散らばる。
窓の外で、赤いペンキを滲ませたような空と陽
ひかりが、ゆったりとワルツを躍っているみたいだ。

「・・・きれい、だね」

言ってゆっくりと、ソファで脚を組む彼の方を見た。
彼の目はずっと、彼の愛する紙のとりこ。
私の言葉なんて紙数枚に阻まれて届かないんだ。


今日はなんだか、それでもいいや。

そう思えたのは、空のせいかな、それとも
紅に染まる彼の、いつもは白皙の肌が、
これ以上ないくらい綺麗に見えたからかな。

どちらでもいい。

心がとても凪いでいるのを感じた。


「...きれい、だね。ナル」
ゆっくりと、一言一言に陶酔しながらあたしは呟く。
勿論返事は期待していなかった。のに。



「あぁ」

右側から、紙に夢中になっているハズの、
あたしより紙が大好きなハズの、彼の声がした。

凪いでいた心が、波立っていく。



「聞いて、たんだ?珍しい」
「さあね」
「本に夢中なんだと思ってた」
「ふうん」
「・・・ナルがあたしをほったらかしにするから、
あたしタ陽と駆け落ちしようと思ってたとこ」
「・・・それは困るな」

ナルが、ほんの少しだけ困ったように苦笑した。


また一つ、心に波紋。
水に落ちた赤インクが、あたしの心を染め上げる。
じわり、ゆらり。
まるでこの、鮮やかなまでのタ陽のような。


右の頬に温度。
その正体は、彼の白く長い指だった。
珍しく温度の高いあたたかなソレは、滑るようにあたしの輪郭をなぞってく。
体が、粟立った。

さっきまで文字の羅列を追っていた瞳は、いつの間にかあたしを射抜いていて。

目が離せない。





捉われる。





そう思った瞬間、彼の指があたしの顎を絡め取った。


あぁ、漆黒の髪までもがタ陽色。

唇が重なる前にふと、思った。

ラヴァー


お話書くのは難しいですね!(今更)