気付いたら、どこか知らない部屋に立っていた。
そこかしこに置いてある、アンティークでいかにも高価そうな家具たちは、まだ真新しく輝いている。
自分の目の前に鎮座している机、その上に乗った、まだ中身の入っている紅茶が、住んでいる人の気配を感じさせた。
しかし、物音は一つだってしない。完璧に、そう、不自然なまでに、無音。
そのことが、異質さ、不気味さを感じさせる。
なんで。なんで、誰もいないんだろう。
ぽたり、
頬に何かが滴り落ちた。それはひやりと冷たくて、反射的に触れてその指を見てみたが、感触通り水だった。
・・・・・・・・・水だ。
なんで、水?
天井を見る。天井には、水の面影どころか、シミひとつありはしなかった。
それでもはっきりと頬にのこる冷たい感触が、事実だと物語る。
そこまで考えて、やっとぞわりと悪寒が背を走った。
どうして、どうして、どうして。
おかあさんはどこ。おとうさんはどこ。おねえちゃんは?
見渡してみても、誰一人居やしない。相変わらずの不気味な静けさが、身体を走る恐怖を煽る。
こわい。
こわいよ。
恐怖で涙が出てきた。それはみるみる溢れてきて、一筋二筋と頬を伝っていく。
混乱と、足元からじりじり這い上がってくるような恐ろしさに、今すぐ駆け出したい気に駆られつつも足が動かない。
どうしよう、どうすればいい?
ひゅう
と、少し冷たい風が何処からか入ってきた。
誰かがかえってきたのかも知れない。
右を見る。窓は閉じたまま開いてはいなかった。カーテンもはためいてはいない。
左を見る。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ドアが。
ドアが開いて
その
隙間から
ぎらぎらと狂気の露になった、血走った瞳がわたしを捉えていた。
だれ
なに
どうして
なんで
やめて
怖い
コワイ
言葉が頭を過ぎっては消えた。指先から、足、体中ががたがた音を立てて震えているのを自覚した。
それなのに視線は瞳から離せなかった。だから瞳がいやらしくにぃ、と歪んだその一瞬も、逃さず見捉えてしまった。
きぃ、と、ゆっくり、追い詰めて楽しむようにじっくりと、おそろしいまでにゆるやかに
ドアが、ひらいた。
こわい。
いやだ。
こないで。
助けて!!!
(ナル、助けて__________________________________________・・・・!!!!!!!!!!!!!!!!)
頭が一瞬は、とクリアになったその時、頭のなかの誰かが言った。
ナルって、だれ?
再び、ぽたり、と雫が頬を伝った。
今度は、ぬるりと生暖かかった。