落ち着いて玄関に足を踏み入れ、中に入ったら、見た目通りキレイなつくりの部屋が現れた。
部屋の数は多く、廊下も長い。壁には高そうな絵が飾ったままにされてある。
家具はアンティークな物が多く、埃をかぶりつつもその美しさは明確だ。
きっと裕福な家だったのだろう________________・・・・・・・
麻衣はそんなことを思っていたうちに、頭痛や眩暈のことを忘れていた。


「夏希がお義父さんを発見したのは、多分ここの廊下でしょう。」
敦さんがそう言って、少し手前の廊下を指差した。

家に見惚れていた麻衣は、その言葉で一瞬にして我に返り、軽い頭痛を感じた。

広いこの家は、廊下も長い。突き当たりにはあの扉があるので、そこだけは視界に入れないようにする。
足を一歩踏み入れる度に、ぎしりと古い板特有の音がした。



「・・・・・・・強い気配を感じるのは三人。女性と男性と、ご姉妹の方でしょうか・・・小さな女の子が居ます。害はなさそうですわ」
真砂子が、霊視の際特有の神秘的な顔つきで、宙を見つめて言った。

そうだ。確か殺されたのはその三人・・・・ご両親と妹さん。
当時九歳と言ったか。



でも、一人足りない。麻衣が一番つよく感じたのは、犯人の悪意と殺意だ。
もう一人、犯人がここに居るはず。

「真砂子。他に憎悪を持った、男の人の霊はいない?」
麻衣は真砂子に問いかけてみる。が、真砂子は軽く首を振った。

「判りませんわ・・・。今はうまく姿を隠してるだけなのかも。ただ、皆さんひどく怯えてらっしゃいますの。そして、来てはいけないと叫んでいる」


どくり、と心臓が脈打った。
しかし、ここで不安な顔をすれば、皆に心配をかけると思い、麻衣は必死に何でもないフリをする。



「何にせよ、ここは危険だ。決して一人ではふらついていたりしないようにして下さい。特に、事件の起こった時間帯_______夜では。」
ナルが冷めた、しかし強張った表情でそう言った。
「・・・・・・それと、今の段階では、この先の居間には近づかない方が良いでしょう。麻衣が反応している。危険です」
重かった空気が、その言葉でさらに緊迫して重くなった気がした。
咄嗟に、居間で殺されてしまった人達のことを想像してしまう。痛かったろうな、悲しかったろうな。そんなことを思うと、胸を鷲掴みにされたような気持ちになる。

「・・・・・敦さん、ご案内ありがとうございました。もう、戻って貰っても結構です。」
ナルが、少し前に立つ敦さんを無表情のまま見つめてそう言った。
敦さんは、少し困惑したような素振りを見せたが、苦笑して、悲しそうに「そうさせて頂きます」と呟いた。
本来なら、自分の家族になる筈の人々が、そして大切な人の家族が、まさにココで絶命したのだ。悲しくないわけもないのだろう。

麻衣はそう考えつつも、頭痛が少しずつ少しずつ痛みを増していることに、気がつかないフリをしていた。



重苦しい空気のなか、敦さんは玄関から出て行った。
それを確認した後、ナルの合図のもと、全員は二階へと登っていく。

リンさんが大きな機材、カメラやなんかを持って広い階段を先頭を切って登る。
それぞれが、持てるだけの機材を持つ。あたしは肉体労働派だから、真砂子のぶんまで持つ。
真砂子が遠慮して持とうとするのを、笑顔で遮る。

女の子がそーんなふうに健気に頑張ってるのに、ナルはというと、手荷物は書類のみ。
軽い呆れと怒りが脳裏をかすめたけど、懸命に抑える。



「・・・・・・・今まで色んなのを相手してきたが、犯人が死刑になってる、てのは初めてだよな」
登りながら、ぼそりと少し躊躇いがちにぼーさんが言った。
確かに。今まで、自殺してしまった、もしくはこのメンバーで犯人を摘発した、なんて事はあったが、捕まって死刑になった事件は初めてである。
「・・・つまり、自ら死を選んだんじゃないってことは、結構な心残りがあったわけよね。犯人は」
麻衣の真後ろにいる綾子が、ちょっと前にいるぼーさんの背中を見つめながら言った。


心残り____________・・・・犯人の、ココロノコリ。








逃ガサナイ______________・・・・・・・・・・・












階段を登りきると、さっきと同じくらいの長さの廊下が現れた。
事前に夏希さんに書いて貰った家の見取り図を見つつ、三つある部屋のうち、突き当りの部屋に入る。
一階とまた別の居間が二階にある。
ドアをあけると、七年も放置されていたせいで、部屋の中は埃でいっぱいだった。

それでも、アンティークの家具はそこかしこで輝いていた。


綺麗なつくりの家具たちにまた魅入って、頭痛を忘れて溜息を吐いてしまう。
広くて、キレイな部屋。家具は、夏希さんが動かしたくないとの所望でそのままにしてあるらしい。


機材を下ろして、広い居間を見回した。

綾子が埃を処理するために、カーテンを開けて窓を開放すると、まだ高い位置にある太陽の光が部屋に差し込んだ。




「ここをベースにする。機材を配置しろ」

相変わらずの無表情で、ナルはそう命令を下す。
あたしたちははぁい、と軽い返事をして機材を設置し始めた。



ふと、隣の真砂子を見ると、またさっきと同じような神秘的な面持ちで部屋を見回していた。


「どうしたの・・・真砂子、だいじょうぶ?」

真砂子の肩に手を置くと、真砂子の身体が激しくこわばった。
真砂子が突然体中の力が抜けたように、へたりと座り込んだ。


「真砂子!?」
あたしは驚いて真砂子の肩を揺する。
驚いたぼーさんと綾子が駆け寄ってくる。

「おい、真砂子!?」
ぼーさんが真砂子の耳元で大きな声で名前を呼ぶ。
すると、真砂子が顔を上げて、真砂子のものではない幼い声を発した。









「逃ゲテ・・・・・・・・・・・・・・」










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